コラム

No.26 「闘う研究者(chercheurs—militants)」としての使命:ピエール・ブルデューからの影響

 2015年夏、全国の大学で安保法案に反対する有志の会がつくられた。新しい大学に移り間もない私が意を決し、発起人として数少ない知り合いに声をかけ、有志の会を立ち上げ、はじめてホームページをつくり、学生と教員合同の学内集会を開き、数々のデモに参加するという一連の行動には、大学院以来ずっと研究を続けていたピエール・ブルデュー影響があったと思われる。

 ブルデューは2000年の最後の来日の講演のなかで、ネオ・リベラリズムに対抗するために「闘う研究者chercheurs—militants」になる必要性を説いた。講演会の席の隣にいらした堀尾輝久先生と15年後の「安保法案に反対する学者の会」で偶然にお会いした時には「お互いchercheurs-militantsだね、ブルデューさんもきっと喜んでいるよ」と声をかけていただいた。堀尾先生は法案通過後の現在も安保法制の違憲裁判の原告として法廷に立っている。  

 ところで、ブルデューのネオ・リベラリズムへの対抗構想である「トランスナショナルな社会国家論」に対して「政治的敗北」、「理論的な敗北」という評価がある。この構想が「ヨーロッパ社会運動協議会への呼びかけ」に十分に取り入れられなかったという点で「政治的敗北」だとしても、決して「理論的敗北」ではない。むしろ社会権を擁護・強化する社会国家の再創造こそがネオ・リベラリズムに対抗軸になると確信している。この構想を日本社会の「子どもの貧困問題」に即して発展させることが、今の私の「闘う研究者」としての仕事である。 

ブルデューさんの墓参り(2012年9月)