高学歴者といえば、低学歴者層に比べて優位にいることを比較されることが多く、彼らの就業状況やエートスについて研究されることは少ない。しかし、ブルデューやデュルベラが言うように、フランスは高等教育を積み重ねても学歴インフレ状態となり、就職にも窮するような状況下にある学生たちもいる。選抜的な数学等の理系科目の試験をクリアした理系の学生への評価は高いが、文系の学生は高等教育年数を重ねても厳しい状況に置かれがちである。さらに理系分野出身者の中でも、「エンジニア」資格取得者はエリート層と考えられ、私が参画した2012年に行われたエンジニアリングスクール出身者への調査では、その資格取得ルートは両親の職種に影響を受けていた。
現在、フランスは国際競争力強化のために「エンジニア」資格取得者の増員を図っており、資格が大衆化される中、エートスも自ずと変化していくだろう。しかし、中心的な配属地、高地位についているのはトップ校のグランゼコール出身者であり、その他のエンジニアリングスクール出身者と有意な差があった。「エンジニア」資格取得者はエリートとして優遇される代わりにノブレスオブリージュを求められる仕事に就くことが多かったが、トップ7校出身者の進路を見ると、若い世代ほど高所得を期待できる金融保険業への就職が増えている。そしてかつてグランゼコール出身者が抱いていた社会貢献に対する意識は、若い世代ほど低い。
また、フランスの管理職・専門職の労働時間は非常に長く深夜に就業したり、週末に会社に呼び出された経験がある人々がかなり存在する。長時間労働により心身が疲弊している彼らの中で、名誉と引き換えに無理な頑張りも引き受けるというかつてのノブレスオブリージュは瓦解しかかっているように見える。しかも彼らは権限と高所得を得る傾向にある。今後、ノブレスオブリージュを意識せず、利己的、経済的、科学的合理性に重きを置いたエリート層の意思決定や「エンジニア」資格の大衆化による高学歴層の態度の変化を目にすることが多くなるかもしれない。