2000年代以降、移民出自のフランス人、特に可視的マイノリティと呼ばれる人々による政治参加を促進する動きが見られるようになった。サルコジ政権、オランド政権とその数は増加傾向にあったが、2017年に誕生したマクロン政権のもとでは、実に30名以上もの「多様性の議員(députés issus de la diversité)」と呼ばれる可視的マイノリティの国民議会議員が誕生した。アジア系の政治参加の動きも加速しており、市議会議員だけでなく2017年に誕生したマクロン政権では新たに数名のアジア系国民議会議員が誕生した。また、パリ市8区区長にはハイフォン市(ベトナム)出身のベトナム系フランス人がなるなど、政治の場におけるアジア系の存在感は強まっている。
この動きに連動するように、アジア系によるアジア系へのレイシズムを告発する動きも見られるようになってきた。2016年8月にオーベルビリエで中国人男性が強盗に襲われ、死亡した事件を発端に起こった「アジア人への人種差別」に抗議する集会とデモ行進は、記憶に新しい。また、近年では、映画やテレビで何気なく繰り返されるからかいといった行為に隠れるレイシズムへの異議申し立てもなされるようになってきた。2014年の映画「最高の花婿(原題 Qu’est-ce qu’on a fait au Bon Dieu ?)」で中国系フランス人の夫を演じた俳優のフレデリック・チョウは、中国系カンボジア人を両親に持ち、ベトナムのホーチミン市で生まれ、幼少の頃にフランスに渡った難民の2世である。2018年にこの映画の続編が製作され、2019年に公開予定であるが、その公開に先立ってフィガロが行ったインタビューで、フレデリック・チョウは、自身の仕事の場である映像や舞台の世界で行われるアジア系に対するからかいやステレオタイプ、戯画化して笑いを誘うといった行いが、差別的であり非常にアジア系コミュニティに影響力を持っている点を指摘し、彼自身、今後、映画の中で「アジア人」を演じることを拒否する、と語っている。認識枠組みや意味世界にみられる人種差別が、フランスにおいて漸く告発されつつある。