コラム

No.14 誰に対する「戦争」なのか?

 2015年11月に起きたテロの後、戦争という言葉が飛び交った。「これは戦争行為である(オランド大統領)」「 我々は犯人を追い詰め、破壊する(ヴァルス首相)」。 それから約2ヶ月後、ヴァルス首相とユーモリスト J. フェラリとの「戦争」をめぐる激論が話題を呼んだ。人気番組« On n’est pas couché »で、駆け出しの芸人が首相を相手に批判を繰り広げたのである。犠牲者追悼の式典にアリ・ボンゴ(ガボン大統領)が招待されたことを指摘、「あなたが率いるのは独裁者を擁護する政府ですよね?」。民主主義や共和国の価値を守る戦争だと言うが独裁者も支援するのですね、と皮肉った。

 「『戦争状態だ』なんてあなたは言うけど、僕たち戦争なんてしてませんよ?僕たちはコンサート会場で「撃たれた」側なんですよ?ほら、このスタジオで銃や武器持っている人います?『イスラム教徒ぶっ殺してやるぜ』、なんて人います?いませんよ?」 首相は食い下がるが(「いったいどの戦争の話?」)、フェラリはひるまない。 

 「戦争状態にあるのは『あなた』だ。戦争をしてるのはあなたの政権であって僕たちじゃない。僕はムスリムに対する戦争なんてしませんよ!」一瞬息をのむ沈黙、そして会場からは大きな拍手が起こる。2,3のブーイングは拍手にかき消され、苦笑する首相の顔が大写しになる。YouTube映像は一週間で100万回近く再生されることになった。 

 フェラリが批判したのは、ムスリムを攻撃対象とする政府というよりは、イスラムというテーマを都合良く操作する政治家の欺瞞と考えるべきかもしれない。それでも問いは残る。テロとの戦争が叫ばれる現在、誰が、誰に対して戦争をしているのか。何を守るー攻撃するー戦争なのか。戦いはいつ始まりいつ終わるのか、勝敗はどう決まるのか。多くの問いがまだ宙づりのままだ。