コラム
キャンパスのあるカンデラリアはカラフルな家が多くきれいだが、急坂で参加者はへとへとに。 (2018年10月筆者撮影)

No.63 旅するルフェーヴル

 10月11日から13日にかけて、コロンビアの首都ボゴタで「都市の哲学研究グループ(Philosophy of the City Research Group)」の年次大会が開催された。この研究グループは社会思想史的な性格が強く、ジェントリフィケーションやフェミニズム、テクノロジーなどの観点を積極的に取り入れた理論・事例研究双方からの活発な議論が展開された。実際に筆者もアンリ・ルフェーヴル研究者のひとりとして、アメリカ、チェコの研究者とともに「都市への権利」セッションで発表を行なった。

 今回、このセッションのみならず多くの研究発表の問題提起や分析ツールとしてルフェーヴルの『都市への権利』や『都市革命』への言及が見られたことで、英語圏でのルフェーヴルの著作の翻訳出版の効果をつよく実感するとともに、ルフェーヴルの思想が文字通り世界を旅していることを目の当たりにできた。もちろん、原文に対応する語がない訳語が足された英語の訳文が流通していることなどの問題点は無視できないが、ルフェーヴル研究者とさまざまな具体的事例に取り組む他の研究者との対話の可能性が大きく開かれてきたことは素直に喜ばしいことである。

 しかし他方で、直近3年分のプログラムを見るかぎり、ケベックの研究者は頻繁に参加しているものの、フランスからの参加者はひとりもいない。ちなみに日本からの参加者も今回の筆者の参加が歴代で初めてであった。今後、独自の空間論の伝統を持つフランスの研究者や、事例として挙げられることの多い東京や京都をよく知る日本からの研究者の参加が増え、新たな化学反応が起きることを願うばかりである。

キャンパスのあるカンデラリアはカラフルな家が多くきれいだが、急坂で参加者はへとへとに。 (2018年10月筆者撮影)
会場のラ・サール大学から望むボゴタの街並み (2018年10月筆者撮影)