コラム

No.64 フランスが「芸術」に託すメッセージ

 少し前に、映画「オーケストラ・クラス」(仏題:La Mélodie, フランスでは2017年11月公開)を観た。この映画は、「デモス」(Démos)という、フランスで3000人以上が体験している音楽教育プログラムを題材にした映画である。

 デモスとは、経済的・社会的・物理的な要因により音楽に触れる機会の少ない子どもたちを対象に、楽器を提供しプロの音楽家が音楽の技術と素晴らしさを教えるもので、このプログラムを受けた生徒の約半数がその後も音楽を続ける成果を上げているそうだ。

 作品で舞台になっていたのはパリ19区の小学校。楽器に触れたこともない子どもたちは楽器を喧嘩の道具に使ったり、最初は滅茶苦茶な授業となってしまうが、先生や生徒どうしの交流(衝突)によって、生徒たちは次第に音楽の魅力に気づき成長する。

 フランスでは、教育を主題にした映画が毎年のように公開されている。舞台となるのは、パリ郊外など移民が集中する地域であることが多く、子どもたちや学校が抱える宗教的問題や、多様性を取り巻く問題が描かれている。「オーケストラ・クラス」も劇中の生徒どうしの会話から、宗教や出自の違いによる差別の問題などを想起させる。描写されるのは、複雑な背景を抱える生徒の心の葛藤と純粋さ、そして生徒に全力で向き合う教師の姿、そして日々、「多様であること」や「違い」に当たり前のように取り組むフランスという国の姿であり、その姿に私は強く惹かれ、考えさせられる。