コラム

No.66 A.コントへの問いかけ-19世紀の実証主義って何だったのさ?-

 コント(Auguste Comte,1798-1857)の「人類精神の進歩の三段階」(神話的段階→形而上学的段階→実証科学的段階)と聞くと、なぜかすぐ日本の歴史教科書問題を連想してしまう。

 明治36年(1903年)に教科書が国定になり、国定教科書「歴史」の執筆者となった歴史学者喜田貞吉(1871-1939)は三種類の歴史の存在に言及していた。①科学的・実証的・学問的な歴史、②国民教育で教えられるべき歴史、③俗話(昔なら講談、今ならTV等での時代劇等)の三つである。①が最重要であるが、実は②のように①を基本としながらも、国家形成・愛国心育成・国民道徳の教育には、「ある程度取捨選択」された歴史も必要だというのである。そして、喜田は明言していないが、国民の「精神衛生」?のため、隠れた道徳教育的機能を果たしているのはむしろ③ではないか?時代劇では必ず正義が勝つ。

 これらをコントの三段階説に符合させてみる。③は神話的、②は形而上学的(=イデオロギー的)、①は真の学問であると。しかし、不思議なことに①は最上位なのに、単独で人類社会を説得するのは難しそうで、もう少し「人間臭く」なる必要がありそうだ。そのためには②も③も必要になるはずだ。だからコントは①を主張しながらも、人生の最後には、限りなく③に近い「人類教」が社会には必要だ!なんて主張するに至ったのではないか? 

 このように勝手気ままに連想しながら、細々とコントを再考する今日この頃である。