2016年11月22日早朝、福島県沖でM7.4の地震が発生した。3.11以降の余震をのぞけば東北沖を震源とする地震では最大規模であったものの、被害は比較的軽微であった。しかし運転停止中の福島第二原発では計器の誤作動により、使用済み核燃料の冷却が一時的に停止したという。原子力発電は、常に事故の危険と隣り合わせである。
ところでフランスが世界一原発依存度(70%超)の高い国であることはよく知られている。そのフランスでさえ3.11の報は原発世論に影響を及ぼした。ギャラップが2011年におこなった国際調査によると、日本やフランスを含め多くの国で原子力発電に対する支持が減少した。この調査結果は当時盛んに報道されたが、改めて二次分析( 注1)をおこなってみると興味深い傾向も浮かび上がる。
表1に示すように、フランスでは所得の高い者ほど原発を支持する傾向が有意である(なお、日本では所得と原発への賛否に相関がみられない)。フランスが階級社会であるとともに、原子力が経済(成長)と軍事両面で、共和国の独立性を維持する手段として市民に支持されていることが背景にあるだろう。もちろん、2012年におこなわれた大統領選挙では、富裕層を優遇してきたサルコジへの批判をうけ、新たに大統領となったオランドは、原発依存度低下を公約に掲げてはいた。しかしその翌年以降の世論調査( 注2 )によれば、(原発依存度を下げる方向性は維持しつつも)、原発そのものへの支持は3.11以前の水準に再びもどり、周辺国から寄せられる原発停止の訴えもフランスは退け続けている。
同調査から読み取ることのできるもう一つ興味深い傾向は、表2に示すように、フランスでは福島第一原発事故の情報を入手する手段がインターネットであると答える者のほうが、若干ではあるものの原発への支持が低下する傾向にあった(ちなみに一般的には若年層ほどネットによる情報収集をおこなうが、年齢と原発支持の相関をみると若年層はむしろ原発を支持する傾向が有意である)。この結果は幅広い社会的事実の一側面に過ぎないとはいえ、ネットはテレビや新聞とは異なる意見形成をもたらすのかもしれない。
それはネットを通じたフクシマに関するデマや不確かな情報にもとづく反応の可能性もある。3.11の直後に『ル・モンド』に掲載された(オイルショックを受け電力自給を実現するため原発推進を担った)ジスカールデスタン元大統領のインタビュー( 注3)にあるような、「現実的にフランスが選択しうるのは原発のみである」という立場からすれば、そのような反応は「不見識」ということになるだろう。しかし他方で、メディアパルトのような質の高いネットジャーナリズムによる報道も含め、ネットが他のメディアとは異なる意見形成をうながす可能性も示唆しているのではないだろうか。
注1) Gallup International. Global Snap Poll on Tsunami in Japan and Impact on Views About Nuclear Energy, 2011. ICPSR31574-v1. Ann Arbor, MI:Inter-university Consortium for Political and Social Research [distributor],2011-09-26. http://doi.org/10.3886/ICPSR31574.v1
注2) http://www.developpement-durable.gouv.fr/IMG/pdf/Chiffres_cles_de_l_energie_2014.pdf
注3) http://www.lemonde.fr/japon/article/2011/03/24/vge-l-atome-tranquille_1497828_1492975.html