以前、集合的記憶論の祖であるモーリス・アルヴァックスについて短い論考を書いたとき、アルヴァックスの生涯を論じた著作(Annette Becker, Maurice Halbwachs. Un intellectuel en guerresmondiales, 1914-1945”, Paris, Viénot, 2003)を参照したことがある。アルヴァックスが息子と一緒に強制収容所に送られたことなど、それまで余り紹介されていなかった過酷な生涯を知ったことも衝撃であったが、よりショッキングだったのは、強制収容所内のアルヴァックスの様子を描いたデッサンが、数枚、掲載されていたことである。たとえば、“Le Professeur Halbwachs(du Collège de France) subit les soins, quelques jours avant sa mort.”との文章が添えられたデッサンには、全裸のアルヴァックスと医師らしき人物が描かれている。
ここまで悲劇的な結末が描かれた著名な社会学者はいただろうか。このデッサンでわれわれが見るのは、何だろうか。自分はまだうまく言語化できていない。ただ、少なくとも、アルヴァックスが残した集合的記憶論を、遙か日本で受け継ぐ者として、その責務を強く感じ至ったことは確かである。