コラム

No.33 バスティーユ広場の5年前

 フランスでは5月にマクロン政権が誕生したが、大統領選で思い出すのは、5年前、オランド大統領が誕生したときのことである。

 当時パリ留学中だった私は、久々の左派大統領の誕生に沸くバスティーユ広場へと赴いた。広場へ向かうメトロはすでに人で溢れており、その熱気が、反対側のシャルル・ド・ゴール広場方面へと向かうメトロの静寂と好対照をなしている。その空気はサッカーの試合の後のようで、まるで、パリの東側が西側に勝利したかのようでもある。広場には、発煙筒を焚く人、バス停の屋根にあがって見物する人、メトロの標識のうえで踊る人、おまけに、屋台を出してケバブを売っている人までいる。三色旗だけでなく、レインボーフラッグやアルジェリアの旗がはためいているところから、左派の勝利が感じられるが、政治的な出来事というよりむしろ純粋に「祭り」という印象を与える。

 もちろん、そこに集まっていたのは、フランスのごく一部の人にすぎず、そのうえそのような中で成立したオランド政権は、フランス国民の期待に応えたとは到底言えないものであったから、その盛り上がりは、単なる「ぬか喜び」だったのかもしれない。しかし、その「祭り」の場にいると湧き上がってくる独特の感覚、今まさに社会が変わろうとしている、あるいは変わるかもしれない、という感覚は今でも忘れられない。大統領など変わっても世の中変わらない、という見方にも一理あるとは思うが、それとは別に、あの場には社会が変わることに期待をかける人々の、潜在的なエネルギーのようなものが顔を覗かせていたような気がしたのである。