コラム

No.5 “便利さ”が優先?

 パリの街中を歩くと,ここ数年で大きく様変わりした光景が目に映る。「コンビニ」風の小型店舗があちこちに出現したことである。これらの店舗では,レストランやカフェでの食事に比べるとかなり安い食品が販売されており,店頭に豊富な果物を揃える店もある。職場における食事時間の減少や外食費の高さ,調理済み食品に対する味覚の慣れなどが,都市部に出現した「コンビニ」風店舗の拡大を下支えしているのだろう。きれいに小分けされたパック詰め商品はスーパーなどで販売されている量が多めの商品よりも価格はやや高くなる。それにもかかわらず,フランスの消費者は「近くで手軽に買える一人分」の商品に“便利さ”を見出しているのかもしれない。また,旅行者にとっては,既知の店名を掲げた看板を目にすると安心して入店できるというのも事実だ。

 「コンビニ」風店舗の急増の背景には,出店規制の緩和と小売業界の激しい競争がある。低価格商品を扱うドイツ資本のAldiやLidlに対抗すべく,カルフールなどの大手小売業が小型店舗を急激に増やしている。 

 消費者にとっての“便利さ”の追及は,裏返せばその“便利さ”を提供するための労働に携わる人々を増やす。雇用増加の面では時にはプラスかもしれないが,労働の質の面から考えると必ずしも喜ばしい事態ばかりではない事態が生じがちである。フランス社会の今後の動向がとても気になるところである。