No.74 コロナ危機後のフランスにおける調査対象者の選定

 「コロナ禍と学生生活に関する社会学的研究―日仏比較」(2022年度日仏学術研究助成採択)をテーマとした研究プロジェクトの共同研究者として、私は2022年9月にフランスで看護学生へのインタビュー調査を行うことになった。

 目標母集団は、コロナ危機時(2019-2021年)にフランスで臨地実習を行ったすべての看護学生である。この条件に当てはまる人にコンタクトを取るのは困難だった。なぜなら、調査対象者は「現役」の看護学生ではなく「元」看護学生だったからである。

 フランスの看護学生が医療・社会施設に大規模に動員されたのは、2020年3月から6月にかけてである。その期間に施設実習を行ったのは、最も若くても2019年入学の学生であり、2022年9月時点では、すでにディプロムを取得して卒業していることになる。彼ら・彼女らは、現在、別の教育機関に在籍しているか、すでにどこかの医療・社会施設で看護師として働いているかもしれない。この元看護学生たちにどのようにアプローチするかが、今回の調査で最も難しいステップだった。

 2022年6月以降、あちこちにメールや電話をかけ、調査の可能性を探った。最初に目を付けたのは、看護学生の学生団体だった。看護学生の権利擁護を目的とし、情報発信に熱心なことから、すぐに返事が来るものと思っていた。しかし、いくつかの問い合わせフォームやメールアドレスを試してみたが、バカンス中だったためか、まったく返事がなかった。この団体は、看護学生からの人権侵害の訴えを多く受ける中で、差出人が外国人であったり、看護学生の権利保護に直接関係のないメールはシステマティックに削除していたのかもしれない。

 その他、看護師の団体、インターン生の団体、コロナ危機に関する研究をまとめてアーカイブしている研究者グループにも連絡を取ってみたが、返事はなかった。また、フランスの友人に頼ったところ、紹介してくれたのは、現役の看護学生であるか(コロナ危機当時の看護学生ではない)、コロナ危機時にはすでに卒業していた人たちだった。

 行き詰っていたところ、コロナ危機と看護学生に関する論文の著者から返事が来た。その研究者は、現在この分野の研究をしていないからと、知り合いの看護学校の先生を紹介してくれた。看護学校の先生から返信があったのは、バカンス明けの9月だった。

 先生は、かつての教え子たちにコンタクトを取り、1人の候補者を私に紹介してくれた。こうして、元看護学生(現在看護師として勤務)にインタビューをすることができた。その元学生は、2019年9月入学で、2022年9月時点で卒業したばかりで、学校や先生とのつながりが残っていた。

 また、後日、その看護学校の先生にもインタビューすることができ、学生の語りと教員の語りを交差させることができた。

 今回はギリギリで調査対象者にアプローチできたが、健康危機のような一過的な経験に関連した調査を実施する際は、タイミングが重要であることを強く感じた。

 コロナ危機の際に実習を経験した元看護学生から貴重な証言を集め、日本語で紹介できたことは大変良かった。このような機会を与えてくださった日仏会館と日仏社会学会に感謝いたします。

(写真)パリ市庁舎前のワクチン接種センター:フランス赤十字社が、パリ市、イル・ド・フランス地域圏衛生局(ARS)、警察署と共同で運営していた(撮影者:西田尚輝、撮影日:2022年7月25日)

『日仏社会学会年報』第33号(2022年)を発行しました

2022年12月に、会員のみなさまには、『日仏社会学会年報』第33号(2022年)を郵送しました。第33号の表紙・目次はホームページ上からも確認できます。

日仏社会学年報 第32号(2021年)

《特集》都市と記憶

古市太郎「地域ニーズを活かしたコミュニティづくり──学習支援団体『一般社団法人A』の事例を通じて」『日仏社会学年報』第32号(2021年)

友岡邦之「モニュメントとしての文化施設の保存をめぐる合意形成手続き──レトリックの戦略的使用の観点から」『日仏社会学年報』第32号(2021年)

堀川三郎「歴史的環境保存と記憶──集合的記憶はどこに位置づくのか」『日仏社会学年報』第32号(2021年)

《論文》

山本千寬「アンリ・ルフェーヴルと『遅れ』の思想──都市環境を構想するために」『日仏社会学年報』第32号(2021年)

《書評》

古市太郎「岡崎宏樹著『バタイユからの社会学──至高性、交流、剥き出しの生』」『日仏社会学年報』第32号(2021年)

櫻本陽一「小澤浩明著『ブルデューの教育社会学理論──教育システムと社会階級・社会秩序の再生産と変革の理論』」『日仏社会学年報』第32号(2021年)

松浦雄介「岡安裕介著『言語伝承と無意識──精神分析としての民俗学』」『日仏社会学年報』第32号(2021年)

鳥越信吾「金瑛著『記憶の社会学とアルヴァックス』」『日仏社会学年報』第32号(2021年)

大前敦巳「園山大祐編『フランスの高等教育改革と進路選択──学歴社会の「勝敗」はどのように生まれるか』」『日仏社会学年報』第32号(2021年)

《自編著を語る》

岡崎宏樹・小川伸彦「デュルケーム/デュルケーム学派研究会著、中島道男・岡崎宏樹・小川伸彦・山田陽子編『社会学の基本 デュルケームの論点』」『日仏社会学年報』第32号(2021年)

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