コラム

No.21 Fête de la moisson

 “収穫祭”とでも訳されるであろうイベントを案内するポスターに、満月と稲穂が描かれている。よく見ると、満月の中には、大きく“추석”というハングル文字があり、エッフェル塔を背景に、韓国の民俗芸能“サムルノリ”を踊る人物たちが描かれている。

  じつは、これは2013年9月に、パリにあるJardin de Séoul, dans le Jardin 
d’Acclimatation で開催された在仏韓国人の祭りのポスターである。“추석”とは、漢字では“秋夕”と書き、旧暦の8月15日に行われる行事で、日本でいえば“中秋”に当たり、満月は中秋の名月を表している。韓国では、秋夕を挟む数日間は連休となり、ちょうど日本のお盆休みのように、遠く離れた故郷に戻り、祖父母や両親、親族と過ごす大切な行事となっている。   

 2013年4月から一年間、パリで過ごした際に、この年、9回目となるFête de la moissonを見る機会を得た。パリのテコンドー教室の生徒たちによる演武や伝統舞踊団の公演、韓国から招待したピアニストや音楽家たちの演奏があり、会場には韓国料理を販売する屋台が立ち並ぶなど、まさに“民族まつり”の様相を呈していた。 

 芸術や文学を学ぶ留学生として、あるいは海外進出する韓国企業から派遣され、あるいは軍事政権時代に政治的な理由で国を追われるようにしてやって来た者など、それぞれさまざまな経緯で、故郷を遠く離れてパリに辿りついたコリアンたちが、ここに集っているのである。 

 “コリアン・ディアスポラ”という新たなコンセプトで、コリアンが集住する国や地域での研究が進んでいる。しかし、移民政策や歴史的経緯から集住した国や地域以外については、あまり顧みられることはない。しかし、そうしたところにも、故郷を遠く離れて暮らす、コリアンの生活がある。